決断する技術

失うことへの未練を断ち切ること


人生は幾多の小さな決断と大きな決断から成り立っています。また、どのように決断するのかで人生の方向が決まります。どこへ行くか、何をするか、だれと共に歩むか、を決めないかぎり人はどこへも到達することができません。何にもしないなら何にも生れません。決断は行動の原点です。ところが自分を「優柔不断な人間だ」と、気にしている人は多いのです。人は決断を迫られたとき、たちまちにして決められるというものではなく、迷うのが当たり前です。迷って迷って時期を逸してしまうこともあれば、決断を渋っているうちに環境がどんどん変化して状況がよくなるときもあります。だからどのように決断すべきか、などという法則はありません。法則はありませんが、心得ておけば役に立つことはあります。決断するとき人は迷いますが、その迷いの原点に何があるのかをはっきりとつかむことです。バラームのロバというお話があります。この架空のロバは同じ二つの干草の真ん中におかれました。すると、どちらの干草を食べればよいのかいつまでも決めかねて、とうとう餓死した、というお話です。右の干草を先に食べれば左の干草が食べられない。左を先に食べれば右が食べられない。このロバの決断は簡単です。右でも左でも先に食べてそれから残った方を食べればよいのです。わかってはいるもののそのように簡単に決断できるものではありません。よく似た少し込み入った事例の中にわれわれがいると思えば教訓となります。ロバはなぜ決められなかったのか、その理由は「ロバは大好きな干草のどちらにも背を向けたくなかった」のです。右の干草を先に食べれば左を失うかも知れないと思い、左の干草を先に食べれば右を失うかもしれないと思う。食べるのはよいのですが、失うかも知れないという不安の方がもっと耐え難いことだったのです。失うことへの未練が行動を鈍らせてしまったのです。

不安、恐怖心と欲望は銀貨の裏表のようなもので何かを手に入れようと思えば、失うことの不安に悩まされる。不安や恐怖心は漠然としているからよけいに決断力を鈍らせてしまいます。どのように決断すべきかを学ぶことも大切ですが、決断を渋るわけ、なにがそうさせているかを明らかにすることが決断を速めることになります。「速く決めろ」と決断を迫ることも大切ですが、「何が、そうさせているのか」と話すことで相手の決断を速めることができます。シュミレーションで経営戦略を学ぶ研修があります。二十人ほどの参加者を一つのグループに四、五人で構成し、三〜四グループで机上の経営成績を競うのです。グループを構成しているそれぞれのメンバーのやり取りが決断の技術そのものです。決断の遅い人、早い人、自分の意見を強行する人、しない人、熱中する人、しない人、さまざまです。限られた時間に投資するか、しないか、人を採用するか、するとすれば何人採用するか、など経営の業績に影響を与える要因を合議で決めます。こうしたグループの行動を見ていますと調子のよい、つまり業績のあがっているグループの人たちはそうでないグループの人たちに比べて決断するのが速いといえます。コンセンサスが速くできます。それに比べて机上の業績が低迷している人たちのグループはなかなか合議が整いません。話し合いの中につねに次期の業績に対する不安があるからです。もし、次の期も業績が低迷したらどうするのか、という不安のさ中にいますから、結果が思わしくないとさらに大きなインパクトとなって跳ね返ってきます。このような状況が続くとグループの雰囲気は悪くなります。雰囲気が悪くなるとグループの人たちは思い切った決断を渋りますから、また結果が悪くなるという循環を繰り返すことになります。業績のよいグループは次期に対する不安はありません。この調子で次期も業績が上がるだろうと期待します。

漠然とした不安感を決断の材料にするのはよいやり方とは言えません。決断を降ろさねばならないときは得られる結果の損得の計算をすることによってメリット、デメリットを計量化させそれによって右左を決します。しかし、わかっていても止まらないのは心情的な要因です。不安、恐怖、怒り、こうしたその場、そのときの気持ちが決断を狂わしてしまいます。職業を選ぶこと、転職をすること、そして人生のよき伴侶を得ること、決断を迫られることはいっぱいあります。

はっきりしていることは人生は二つの道を同時には進めないということです。二つのチャンネルを同時に見るようなテレビドラマのようには行きません。チャンネルを選択したら一所懸命に人生のドラマを演じることです。失うことへの未練よりもこれから得られることへの期待とその達成に邁進することが生きるための知恵です。新しい一歩を踏み出す決心がつかないのは現状も捨てたくない気持ちが強く働き、決断が渋るのです。失うことへの未練にいつまでもとらわれていては先には進みません。一方を得ることは一方を失うことにあります。決断の「断」とは「断ち切ること」です。断ち切る勇気、それが決断の技術です。


生きる知恵と仕事の技術を高める着眼点
  逆境を生きる
決断する
長所を発見する
自信をつける
恐れを克服する
自分を発見する
選択する
自主性を育てる
人を見抜く
ジレンマを解決する
失敗から学ぶ
衝動を抑える
やる気にさせる
部下を動かす
部下との対話
アドバイスのしかた
逆説を使う
対立、争いを解決する
質問する技術
本心を読み取る
かけひきする
交渉する
頭を下げる
譲歩する
対人関係
価値観
退職理由を聞き出す
真似をする
変革させる
計画する
会議の技術
会議を壊す方法
改革を進める
落とし穴にはまらない
具体化させる
明確にさせる
人事考課
業績を上げる
同じ釜のメシを食う
サービス業の知恵
仕事と遊びを区別する
締切を設ける
志を長持ちさせる
自分を変える
融合する
器量を育てる
地に足をつけて立つ
出向する
独立する
人生を設計する